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仙台高等裁判所 昭和42年(ネ)112号 判決

控訴人 小田原臣夫

被控訴人 佐藤忍 外一二名

主文

原判決を取消す。

被控訴人らの本件訴を却下する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人らの請求を棄却する。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上、法律上の主張並に証拠関係は、

控訴代理人において、

一、本件は境界確認を求める訴訟であるから、土地が共有の場合は共有者全員で出訴すべきである。然るに本件一八番の一山林の共有者の一人である小田原蕊(控訴人の実弟)は、被控訴人らから訴訟告知を受けたが本件訴訟には参加しなかつたのであるから、本件訴は不適法というべきである。

二、被控訴人らの後記一の主張事実は認める。

と述べ、

被控訴人ら代理人において、

一、第一審原告渡辺酉治は昭和四〇年一月八日死亡し、その長男である渡辺康一において本件一八番の一山林の共有持分権を相続し、また同じく第一審原告畑中孟は昭和三六年二月一二日死亡し、その長男である畑中長において本件一八番の一山林の共有持分権を相続したものである。

二、本件訴は適法である。

(一)  本件は一八番の一山林の共有者一四名のうち一三名で出訴し、共有者の一人である小田原蕊に対しては第一審訴訟係属中民事訴訟法第七六条により訴訟告知をしたが、同人はついに訴訟に参加しなかつたものである。

ところで訴訟告知の効力については諸説あるが、同法第七八条の辞句を素直に解するときは、訴訟に参加しなかつた被告知者小田原蕊も参加することを得べかりし時即ち本件においては訴訟告知の公示送達の効力が発生した昭和四一年五月八日に参加したものと見做され、その結果本訴は共有者全員によつて提起されたと同一の効力を有することとなつたものである。

(二)  仮りに右訴訟告知によつて共有者全員の共同出訴と同一の効力を生じないとしても、土地の境界を主張し、その確認を求める行為は保存行為であるから共有者単独でもこれをなすことができ、仮りに保存行為でないとしても、それは処分行為ではなく結局管理行為と解すべきであるから、共有者の過半数によつてこれをなし得るものというべく、本件は共有者の過半数によつて提起されたものであるから、本件訴は何れの点からみても適法である。以下その理由を詳述する。

(イ)  土地の境界はこれを作用の面からみれば、所有者がその土地につき権利を行使し得る地域的限界であり、同時にまた隣地の所有者又は占有者から権利を対抗される地域的限界である。故にそれを侵害する者があれば所有者は直ちにそれを排除すべきであり、その排除は所有地を保全するために寸時も忽にできない必要不可欠の行為であるから、それは正に保存行為であり、保存行為である以上共有地においては共有者各自単独でこれをなすことができ、寧ろ為すべきものである。

またこれを実体の面からみれば、共有地との境界なるものは数人共同所有の土地と隣地との接着する単一不可分の一線であり、従つて共有者中の一人が境界を主張し確認を求める場合においても、その主張する境界は単一不可分の一線-相接する部位の全線-であり(持分によつて制限を受けない)、従つてまた境界の確認を求める権利は単一不可分の権利であり、しかも共有者各自単独でも行使し得なければならない権利である。

(ロ)  仮りに境界を守り、主張し、確認を求める権利が保存行為に属しないとしても、それが処分行為でないこと言うまでもなく、右何れにも属しないとすれば、結局管理行為と解するのほかなく、管理行為であれば共有地においては共有者の過半数の同意によつてこれをなし得るものである。

(ハ)  そもそも土地の境界なるものは地表に画された確定した一線であり、(A)その多くは地表の形態によつて明認でき、両地の所有者がこれを確認しているのが通常であり、(B)唯洪水によつて表土全部が流水した場合の如きは、地表の形態が変化し従前明認されていた地表の形態がなくなつた結果、本来の境界そのままの線を発見し得ない(耕地整理をした土地で基点からの実測により境界が判明する場合のほかは)現存する地表につき新たに境界線を定めなければならない。

それ故境界について争が起る場合にも右二個の場合があり、従つてそれがために提起する訴及びそれに対する判決もまた右二個の場合によつて異るものである。即ち、右(A)の場合、詳言すれば以前から確定しており且つ現に明認できる境界線があるのに隣地所有者が不法にそれを侵害した場合の訴は本来存在する境界を探求し、それを確認して貰うための訴で、その判決もそれを確認するだけで何ら新たな事実関係及び法律関係を創設又は変更するものではないから、その訴は確認の訴であり、その判決は確認判決である。ところが(B)の場合においては地表形態の変化により本来存在し明認されていた境界線そのものを発見することができないから、改めて新たに境界線を定める必要があるので、その訴は確定を求める訴であり、その判決は改めて(新たに)境界線を定め、それに伴う法律関係を創設するものであるから形成判決である。

しかし形成判決を求める訴であるから一律に共有者全員でなければ提起できないと断ずることは失当であり、また判決の効果が共有者全員に及ぶから全員でなければ出訴できないという理由もない。判決の効果が全員に及ぶことは、地代請求又は損害賠償請求、妨害排除請求等の訴においても同一である。

要するに、境界確認の訴は共有者の過半数によつて提起し得るものであり、少くとも右(A)の場合-本訴はこれに当る-においては共有者の過半数によつて出訴し得るものと解する。

(三)  更にこれを共有地の経済的利用の見地からみるに、共有地と隣地との境界確認を求める訴が共有者全員の同意がない限りこれを提起し得ないとすれば、共有地が隣地の所有者又は占有者から侵害された場合に共有者の一人が同意しなかつたり、又は一人の同意を得ることができなかつたり(所在不明等で)すれば、他の共有者が九割九分の持分を有していても境界確認の訴を起すことができず、袖手侵害を傍観するのほかなく、それでは共有地の所有権は実質的に壊滅すること明らかで、単独所有地の所有権との間に法の保護に天地の差を生ずべく、そのようなことは単独所有権も共同所有権も所有権として全く同一である点からみても、またすべて国民は法の下に平等であるとの理念からも許されないことである。

と述べ

証拠〈省略〉

ほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

理由

本件訴の適否について判断するに、いわゆる境界確定の訴は、相隣接する土地の境界が不明であるか或は境界につき争いある場合に、裁判所の判決によつてこれを確定することを求める訴訟であるところ、該訴訟においては、裁判所は当事者の主張する境界線に覊束されることなく、その正当と認める境界線を判決によつて形成することを要するものであるから、右訴訟は形成訴訟であり、その判決は形成判決と解すべきである。

しかして、該訴訟は相隣接する土地の境界を定めるものであるから、隣接する土地の各所有権者が原告又は被告としての適格を有するものであるが、該隣接地の一方又は双方が共有地の場合においては、共有地の処分権は共有者の全員に属するものであるし、判決によつて確定される境界線が共有者に区々となることは法律上許されないところであるから、該訴訟は共有者全員が共同してのみ訴え又は訴えられることを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解するのが相当である。

本件において、福島県相馬市山上字小豆畑一八番の一山林が被控訴人ら及び訴外小田原蕊の共有に属するものであることは被控訴人らの主張自体から明らかであるところ、右小田原蕊が共有者として本件訴訟に加入していないことは記録上明らかであるから、右一八番の一山林とその隣接する同字一七番山林との境界確定を求める被控訴人らの本件訴は、正当なる原告としての適格を欠くものとして不適法といわねばならない。

被控訴人らは、共有者の一人である右小田原蕊に対し第一審係属中に訴訟告知をしているから、右小田原蕊も訴訟告知書が送達された時に参加したものと看做され、その結果本訴は共有者全員において提起したのと同一の効力を有するに至つた旨主張するところ、本件が一審に係属中被控訴人荒益夫から小田原蕊に対して訴訟の告知がなされていることは記録上明らかであるけれども、訴訟告知の制度は当事者から第三者に訴訟の係属を通知し、訴訟の結果について利害関係を有する第三者に補助参加をしてその利益を擁護する機会を与えると共に、告知者が敗訴し後日告知者と第三者との間に訴訟が起つた場合、第三者において敗訴の結果を無視して前訴の判決の認定判断と相違した主張をすることを許さない利益を告知者に享受させる制度であつて、訴訟告知がなされたからと言つて被告知者が当然補助参加人となるものではないし、まして訴訟の当事者となるものではないから、前記のように共有者の一人である小田原蕊に訴訟告知をしてもこれによつて本件訴の当事者適格が充足されたものということはできない。被控訴人らの右主張は採用できない。

次に、被控訴人らは、土地の境界確認を求める行為は保存行為或いは管理行為であるから、共有者の一人或いは過半数によつてこれをなし得る旨主張するけれども、境界確定訴訟の判決によつて形成される境界線の如何によつては共有地の範囲を変更したのと同一の結果を生ずることとなるのであるから、境界確定の訴の提起行為は保存行為或は管理行為ではなく処分行為であるといわなければならない。従つて右訴訟は共有者の一人又は過半数をもつてはこれをなし得ないものというべく、これと異る被控訴人らの前記主張は採用できない。

なお、被控訴人らは、共有地の場合共有者全員の同意がない限り境界確定の訴を提起することができないとすれば、只一人の同意がない場合でも訴を提起することができなくなるから、かくては権利の保護に欠け、単独所有の場合に比して法の下の平等に反する旨主張するけれども、共同所有と単独所有とはその所有形態を異にするのであるから、法律上その間に種々差異が生ずるのはむしろ当然であるし、若し共有者間の意見の相違或はその他の事由により境界確定の訴の提起につき共有者全員において同一歩調を措り得ない場合は、各共有者において各自の有する共有持分権に基づいて他の共有者とは関係なく自己の権利の保護を図ることもできるのであるから、共有地の場合その境界確定の訴は共有者全員より又は全員に対して訴え又は訴えられることを要すると解しても、権利の保護に欠けるとは言えないし、また法の下の平等に反するとも言えないから、この点に関する被控訴人らの主張も採用できない。

よつて原判決を取消して本件訴を却下することとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条、第九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 村上武 松本晃平 伊藤和男)

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